1.ブロック化パネルヒーター開発の概要
面状の高温加熱は、我々にとってやっかいなテーマになる事が多かった。なぜなら加熱したい面の形状、サイズが様々であり、標準品の設定が出来ず、いつも特注対応していた。しかし特注対応は手間がかかり、コストが高く納期が長くなり、また設計の配慮が不十分で思わぬトラブルが発生する事も多々あった。
この問題を根本解決するために、小さな面加熱用の標準ヒータ(ブロック化パネルヒータ)を準備しておき、それを用途に合わせて必要数組み合わせて使用する事で、面加熱の多様なニーズに細かく迅速に応えようと考えた。
このヒータの開発構想は2018/06/25の「超大電力ヒーターへの挑戦。ブロック化ヒータ」でも触れている。この構想から1年後くらいに最初の試作機が完成した。これは下図の様に平面ミラーを組み合わせた形式だった。この試作品は1000℃の加熱能力が得られ、当初の目的は達したかに見えたが、試運転中に何らかの原因でランプが破裂した。するとランプ同士が近接しているため、全数(16本)が誘爆してしまった。

そのためこのプロジェクトは中断していたが、新たな構想の元に再チャレンジすることにした。
2.改良方針
①たとえ1つのランプが破裂したとしても、その影響が他のランプに及ばないこと。
②初回試作品はブロック化のレベルが浅く、冷却等は共通基板を使う方式だったが、これを改め1つ1つのブロックヒータで独立して完結できる様にする。
これらの改良でいくらでも大規模な加熱装置が簡単、安全に短期間で構築でき、さらに平面はもちろん、どのような曲面でも自在に対応できる様になる。
3.詳細設計と試作品の評価
3-1.基本構造
ランプはJCD100vー1000w-B(Tc3050K-Life800h)を採用する。フィンテック社で標準的に多く使っているランプであリ、将来に渡り安定的に供給可能である。ただしソケットを使わない構造なのでユーザーが簡単に交換できる構造ではない。ランプ断線時はユニット交換となる。ただしメーカー返送でのランプのみ交換は可能(実際には5~10本まとまらないと困難)
1つのユニットは1つのランプを丸形ミラーで包み込む方式とする。単純に考えると放物面鏡を使うのが一般的だろうが、放物面鏡だと径が大きくなり高密度出力にならない。
高温で高効率の面加熱を実現するには大出力ランプをできるだけ小径のミラーに納め、しかもランプからの出力光をできるだけ1回の反射で全てミラーの外に放出させないと高性能は望めない。
そこで下図の様な複雑な曲面構成として、ほとんどの光が1回の反射でミラーの外に放出され、しかも1kwという大出力ランプをΦ55という小さいサイズのミラーに収める事に成功した。
冷却水とランプ冷却エアー供給 小径ミラーに大出力ランプ 使用したランプ100v-1kw
水0.5L/min. エアー30L/min. 前面ガラス付 質量540g 温度測定用の熱電対装着品
ヒータユニットの配置方法と入力電力密度
碁盤目配置 千鳥配置
3-2.配光分布
ブロック化パネルヒータに要求される配光特性は、多数を面状に配置して照射したときに、できるだけ均一な温度分布が得られることである。またできるだけ高温に高効率で加熱出来る事も重要である。
下記はその特性を測定したものである。ほぼ狙いの特性となっている。高温性能も単独のヒータで900℃に達しており、集光させない拡散型のランプ加熱ヒーターとしてはかなり優秀である。ランプへの供給電圧は95vで899wであった。
照射中心からの距離と温度分布 照射距離15mm
照射距離と配光分布

照射距離10mmでの配光。かなりフラットである

照射距離15mm。フラットな配光を維持する

照射距離20mm。フラットな配光を維持する

95v点灯したところ。
上記のブロック化パネルヒーターユニットを7個円形配置した面加熱ヒーター
7ユニット円形配置タイプのパネルヒーター配光

20mmで照射

30mmで照射
配光の評価
ユニット数が少ないと中央部が明るくなりやすい。だから7ユニットタイプとしては十分に均等ではないかと思う。それにこの方式では個々のヒーターの出力が個別に調整可能なので、要望に合った加熱パターンが容易に得られる。
長時間運転テスト結果
95v-899w 冷却水0.5L/min. エアー30L/min. 照射距離15mmで耐火レンガを照射。前面ガラス(石英)は耐熱シリコンで固定。
2021/07/01現在100時間 異常無し 終了
3-3.水冷について --- ミラーの冷却用
水冷板を貼り付けてミラーを冷却する方式だが、熱伝導用グリースを使用せずに貼り付けたものは結果が悪かった。下記は冷却水0.5L/min.、冷却エアー30L/min. の時のデータである。ランプへの供給電圧は95vで899w。耐火レンガに照射し、レンガまでの距離は約15mm。
ミラー温度 ランプバルブ温度 ランプシール部温度
熱伝導グリース有り 123℃ 819℃ 276℃
熱伝導グリース無し 156℃ 859℃ 308℃
そのようなわけで、熱伝導グリースの使用は必須である。使用したのは
アークティッククーリング MX-4/4g 熱伝導率8.5w/mK ¥1190
冷却水の持ち出すエネルギーは冷却水流量が6.88g/s, 温度上昇δT=9.7Kだったので、水が持ち出すエネルギーP=4.2J/g/K×6.88g/s×9.7K=280w これはミラーが吸収したエネルギーにほぼ等しい。後記する冷却エアーが持ち出すエネルギーが約180wだったので総損失は460w。
このヒーターの試運転は耐火レンガを15mmの位置に配置しての加熱なので、赤熱した耐火レンガからの照り返しによるヒーター自身の2次加熱を強烈に受けている。それを考慮すれば妥当なエネルギーロスではないかと評価する。
3-4.空冷について --- ランプの冷却用
水冷では直接的にはランプの冷却は行えない。そのため空冷を併用する必要が生じる場合がある。下記は冷却水0.5L/min.で冷却エアー量を変化させた時の各部温度データである。ランプへの供給電圧は95vで899w。耐火レンガに照射し、レンガまでの距離は約15mm。
-------- 冷却エアー ------- ---------------- 各部温度 ℃ -----------------
流量 圧力 ミラー ランプバルブ ランプシール部
10L/min. 0.03kPa 125℃ 918℃ 385℃
20L/min. 0.07kPa 124℃ 869℃ 325℃
30L/min. 0.12kPa 123℃ 819℃ 276℃
40L/min. 0.17kPa 122℃ 777℃ 200℃
評価:30L/min.以上の空冷エアーを流すのが望ましい。
:シール部温度は銅板で放熱補助を加える予定なので、空冷は必ずしも必要ない。
:バルブ温度は熱電対測定なので、50℃程度高めに誤差が出ている可能性が高い。
:バルブ温度は700℃台なら十分安全。800℃台なら使用可。950℃は要注意
:近接照射で空冷が無いとバルブはワーク温度≓900℃を超えるので空冷は必須。
ー 参考 ー
冷却エアーが持ち出すエネルギーP=0.02×エアー流量×温度上昇
流量は30L/min.とし、それの排気温度は約300℃なので
冷却エアーが持ち出すエネルギーP≓0.02×30L/min×300K=180w
4.総合評価と改良点
この試作でほぼ所期の目的を達成した。このブロックヒータは単独でも完璧な冷却機構を有しており、これを単純に多数並べるだけで高信頼性の面加熱装置が容易に構成できる。しかも個々のランプは丈夫なミラーで包まれているので、例え1つのランプが破裂しても、他に影響する心配は無い。このように本ヒーターは高い安全性も有している。
今後の改良点
①水冷ユニットに空冷エアー接続口を設ける必要がある。→対策済7/12
②前面ガラス有りの場合、空冷エアーの逃げ口をミラー開口部近くに設ける→対策済7/12
③ランプの接着固定は、半月状に曲げた放熱用銅板をシール部の両側に入れ、ボンドエッ
クスで接着する。しかも30L/min.のエアーが抵抗なく通過出来るだけの隙間を設けな
くてはならない。→対策済7/12
その他、試算
30L/min.(500cm^3/s)での流速
Φ2穴 S=(0.2/2)^2×Π=0.0314 cm^2 FS=500cm^3/s ÷0.0314cm^2=159m/s
Φ4穴 S=(0.4/2)^2×Π=0.1256 cm^2 FS=500cm^3/s ÷0.1256cm^2=39.8m/s
Φ6穴 S=(0.6/2)^2×Π=0.2826 cm^2 FS=500cm^3/s ÷0.2826cm^2=17.7m/s
Φ8穴 S=(0.8/2)^2×Π=0.5024 cm^2 FS=500cm^3/s ÷0.5024cm^2=9.95m/s
コンプレッサーのエアー(0.6MPa)なら風速100m/s以上も選択可
しかし一般的な0.5kPaクラスのブロアを調査すると吹出内径Φ50=19.6cm^2、エアー流量が2000L/min.=33300cm^3/sだったのでエアー流速はFS=17m/sだった。
当ヒータの空冷を考える場合、エアー流速は17m/s以下を標準と考えれば良いだろう。そうすればコンプレッサーに限らなくても一般的なブロアが選択可能になる。
すると30L/min.の場合はエアー通路やミラーに開けるべき排気穴はΦ6穴以上となる。ただし高温(300℃程度)になると2倍程度に熱膨張するので2倍程度の面積がほしい。これを2個の穴で構成するとすればΦ6×2個となる。接続チューブはシリコンチューブΦ7×Φ11が適切だろう
このヒータを水冷なしの空冷のみで運用できるか
この場合、エアー流量は500L/min.が必要だろう。なぜなら水冷で持ち出していたエネルギーは280w。すると30℃の温度上昇を許したとして必要風量はF=50×280w÷30K≓470L/min.
これにランプ冷却用の30L/min.を加えると約500L/min.が必要となる。
500L/min.として試算を続ける。前記の計算結果から推定すると必要な内径は約Φ25となる。
Φ25穴 S=(2.5/2)^2×Π=4.91 cm^2 FS=8333cm^3/s ÷4.91cm^2≓17m/s
選択するブロアは近距離であれば最大静圧が0.5kPa以上で、1台あたり0.5m^3/min.の能力のあるもの。ただし1.5倍程度の余裕をみたい。すると例えば7ユニットタイプなら5.3m^3/min.程度のブロアが望ましい。
このヒータの場合、放熱面積を稼ぐにはミラー内に穴を開けてエアーを通すのがよいだろう。
8個穴だとΦ8.8×8個穴=(0.88/2)^2×Π×8個=4.86 cm^2 となりΦ25穴に相当する。
12個穴だとΦ7.2×12個穴=(0.72/2)^2×Π×12個=4.88 cm^2 となりΦ25穴に相当する。
ただしここでの使用方法の前提は長時間の高温連続運転の場合であり、短時間,間欠
運転の場合や、ワーク温度が低い場合はもっと低い冷却能力で済む場合も多くある。
照射距離によるエネルギーの放出効率、熱効率の変化
照射距離が短いと、高温になった加熱対象物から強い照り返しがあり、これによりヒーター自身が加熱される。これを言い換えると、ヒーターから放射出力の割合(放出効率)が低下する。以下は照射距離と、その時の放出効率を各測定値から算出したものである。
方法は冷却水が持ち去る熱エネルギーと冷却エアーが持ち去る熱エネルギーを計測して損失エネルギーを求めた。そして供給電力からそれらの損失エネルギーを差し引いてヒーターからの放射エネルギーを求め放出効率を算出した。
照射距離による放出効率の変化 ランプ電圧 95v ランプ入力電力 870w
照射距離 冷却水損失 冷却エアー損失 総損失 放出効率
10mm 320w 200w 520w 40%
80mm 190w 160w 350w 60%
つまりヒーターから放出される熱エネルギーの割合(熱放出効率)は距離が離れるほど高くなる。照射距離が10mmでは40%しか放出されないが、80mmでは60%も放出される。
しかし、これをもって照射距離が長い方が加熱の熱効率が良い、と判断してはならない。加熱対象物からの距離が離れると、加熱対象に吸収されずに外部に逃げてロスになる放射エネルギーが増える。
そのため、実質的な熱効率(加熱対象を加熱する熱効率)は照射距離が近いほど高くなるだろう。光加熱にしても熱風加熱にしても、熱効率は大体30%程度だということを我々は経験上、知っている。このパネルヒータも距離を近づければ最大40%が期待できそうだが、一般的な事例で熱計算する場合には熱効率を30%程度と考えた方が良いだろう。
照射距離は近い方が熱効率が良いといっても、あまり近づけ過ぎるのはヒーターに不具合が出る可能性が有る。もし照射距離がゼロ(密着)で耐火断熱レンガを加熱した場合、供給電力は全て冷却水と冷却エアーが持ち出さなくてはならない。この様な極端な条件は想定外なのでトラブルが起こる可能性が有る。
このヒーターの照射距離は20~30mmが適正と考えており、最短でも15mmを最低照射距離としたい。
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